2014/09/28

ロンシャンの礼拝堂





数年前のコルビジェの展示を東京で観た。
最後の展示室に、コルビジェ自身が奥さんと過ごした海辺の別荘が再現してあった。
キッチン、シャワールーム、ベッド、収納、テーブル…
この全てが8畳の広さに収められていて驚いたのを覚えている。
その作りのどれもが使い勝手が良く、無駄がないのに無機質でもなかった。
それからこの礼拝堂にも興味が湧いて、
いつか行けたらとずっと思っていた。
そして来てしまった…また…おひとり様で!(ガクガク)

スイス・バーゼル駅から(駅構内でフランス国境入り)電車を乗り継ぎ約2時間。
着いた駅は私の地元よりも田舎。
無人駅から山道を登ること30分。
ぜーぜー言いながら冷たく澄んだ空気が美味しいのだった。
そして視界に入ってくる、丘の上のコルビジェが設計したロンシャン礼拝堂。
それまでの直線的な建築とは異なる、夢の中の建物みたいなむくむくとした礼拝堂。
屋根の黒い部分は下から見上げると大きな船のよう。
各所に物語を感じるような建物だった。
(ステンドグラスの趣味は???だったけれど)

ここで、同じく日本から来ていたMさんと芝生の上で休憩&雑談。
みんないろんな旅をしている。
Mさんがフィルムカメラで撮影しており胸を鷲掴みにされる。
更に地元のスケッチ大会中学生にからかわれたり。
『ねーねーお姉さん達中国人?きれい、写真撮ろうよ』
と地元中学生の陽気な安田(と命名)のiPhoneに収まる。
どう考えたって、君の同級生女子の方が私たちよりセクシーだよ、
いつも盛り上げ役ありがとな安田…元気でな…!

途中、(わかりやすく説明するならば)腰のひん曲がった高齢のシスターが
杖をついて何度も休みながら、礼拝堂に入っていった。
安田達が敬いながらシスターと話しているのが好きだった。
すっかり子供の顔になって。
後でまた礼拝堂へ入ると、もう誰もいないと思っていた椅子の間に小さく、
シスターは身体を屈めてずっとお祈りしていた。

帰り、そのシスターはすれ違う時
『あなた日本人ね。
 昔パリの修道院で沢山の日本人シスターと一緒になったわよ。
 みつこ、みやこ、なつこ、ね。』
と声をかけて下さった。
腰は思いっきり曲がっているけれど(かなり高齢だと思う、90歳とか)、
こんな風に信仰に人生を捧げ、ずっとずっと祈り、その力みも通り越して、
そして本当にそのまま終わろうとしている人がいるんだ。
「Bonne chance!」幸運を、そう言うと
『私も日本語で、あなたにそう言いたいものだわ』
シスターはそう言って、またゆっくりゆっくり歩いていった。
あんなにゆっくり歩く人を、私は見たことがないだろう。
思想が彼女の身体を越えていく時が、少しずつ近付いているのかもしれない。
これまでどれだけのことが彼女を通り過ぎただろう、
それでも残るのは穏やかでささやかな、こんな空気感なのかな。
私は彼女の、そんな時間を見た気がした。












4 件のコメント:

  1. なんか泣いちゃった。あなたエッセイストになったらいいわよ。

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  2. なれるもんならなりたいわい!
    しかしね君、君の感度が良すぎると私は睨んでいるよ。

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  3. いやいや、ただの妄想族なだけ(笑)
    でもホントに情景と空気の匂いが伝わってくるよ。
    老いたシスターの歩いていく後ろ姿を私は見たね。そして涙。

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  4. その感受性にこちらの方がじーんとしてしまうよ。
    後ろ姿で物語る人ってすごいね。
    本人はそんな気ないのだろうけれど。
    言葉もなく、ただただ心で感じてしまうZE⚡️

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